優しく爽やかにはじまり、それと同様な終わり方をする映画なのだが、観ている最中は、喜怒哀楽という言葉では足りない感情、思いが噴出してくる。
レイプ中に火で燃やされ殺された娘の母親が、街中に以下の3枚の大看板を出すことを思いつくシーンから映画は始まる。
「娘は殺されながらレイプされた」
「でも犯人はまだ捕まっていない」
「どういうこと? ウィロビー署長」
以降、とても一本の映画とは思えない密度感で圧倒してくる。
見終わったときに、わずか2時間で、自分はいったいどれほどまでに感情が動き、考えるべきことを考えていたのだろう、と驚くこと請け合いである。
現代社会が抱える様々な差別テーマを内包している。
・人種差別
・LGBT差別
・障害者差別
・身分、階級差別
・知的差別
レイプだけでなく
・教会での性的虐待
・警官の暴力
・くさいものにふた = 難しいことは考えないでおこう
・田舎の閉塞感と伝統重視
・言葉の暴力
・自殺のとらえ方
・「善」とは
など現代的な社会病も含んでいる。
次々と驚くべき展開で、こちらの期待を見事に裏切っていく。
それもとても心地よいやり方で。
後から考えると、「確かに誰の人生でもこんなふうに展開していくよね」と感じさせるものがあるのが凄いところだ。
多くの人に劇場で大画面で観て欲しい。
俳優たちのささいな表情が活きているから。
どの俳優も素晴らしいのだが、この母親の息子が特に好きだ。
適度な存在感で青年特有の光を放っている。
彼がいると画面がほんのり明るくなる。
『マンチェスターバイザシー』でもそうだった。
作品の選び方もいい。
天才はこうして出てくるのだなと。